AI 教育研究所
(早稲田大学田中博之研究室)

AI教育研究所は、子どもたちの創造力と課題解決力、対話力を育てるために、人工知能(生成AI)を有効利用する方法を研究開発することをねらいとしています。
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 ここでは、ChatGPTに実装されている「GPTs」づくりのプロセスを念頭に、子どもたちが自然言語によるノーコードプログラミング学習を進めるための学習ガイドを提示します。

このガイドは、「AI-ROCOモデル」の5つのキーワードを柱としながら、学習者が実際にGPTsを創作するステップをわかりやすく整理したものです。学習者(子どもたち)や教師、ファシリテーターが参考にできる形式でまとめました。


AI-ROCOモデルに基づくGPTs学習ガイド

1. 概要とゴール

1.1 AI-ROCOモデルとは

  • AI (Artificial Intelligence)
    … AIそのものを活用・協働者として捉える
  • Riliable Information (信頼ある情報)
    … 使用する情報の信頼性・正確性・出典を重視する
  • Objective Knowledge (客観的知識)
    … 科学的・学問的根拠となる知識を学び、活用する
  • Creative Ideas (創造的アイデア)
    … 自由な発想や想像力、アイデア展開力
  • Original Values (独自の価値観)
    … 学習者自身の関心・問題意識・倫理観や目指す方向性

1.2 GPTs学習のねらい

  • ノーコードで自分だけのAIエージェント(GPT)を作る体験を通じて、AI・情報リテラシー・創造性・主体的学びを発達させる。
  • AI-ROCOモデルの視点を意識しながら、単なる「AI活用」だけでなく、信頼情報の選択・客観性と創造性の両立・自分の価値観を反映するプロセスを学ぶ。

2. 学習プロセスの全体像

以下の6ステップで学習を進めることを提案します。ChatGPTの「GPTs」構築画面(テンプレート入力・システムプロンプト設定・追加コンテキスト設定など)に対応させながら進行します。

  1. Step A: Original Values の確認
    • (学習の導入) テーマ選択・目的意識の明確化
  2. Step B: Riliable Information の収集
    • (情報リテラシー) 信頼ある資料・データを探し、整理
  3. Step C: Objective Knowledge の活用
    • (客観性) 学問的・検証可能な知識を踏まえる
  4. Step D: Creative Ideas の展開
    • (創造性) アイデアの具体化とGPTの機能・ストーリー設計
  5. Step E: AI (GPTs) の構築と調整
    • (技術実践) ChatGPTのGPT作成画面を使ってシステム/ユーザー設定
  6. Step F: 評価・振り返り
    • (完成→テスト→改良) 作ったGPTを公開・検証し、価値観や情報面を再チェック

3. 各ステップの学習ガイド

Step A: Original Values の確認

(1)目的を定めよう

  • まずは「どんなGPTを作りたいのか?」を考える。自分の興味や身近な課題、社会問題などからテーマを設定しよう。
    • 例:「環境保護の知識を分かりやすく教えてくれるGPT」「地域の観光スポットを紹介するGPT」など。
  • どんな人に役立てたいか? どんな価値を大切にしたいか? という視点で「Original Values」を言葉にしてみる。

(2)チーム・役割決め

  • 個人でもよいが、複数人ならそれぞれの得意分野を活かすとより深い学びに。
    • 情報収集担当、プロンプト設計担当、デザイン担当など。

Step B: Riliable Information の収集

(1)情報源を探そう

  • 教科書・図鑑・論文・Webサイト・専門家へのインタビューなど、多様な資料をチェック。
    • 信頼性が高いとされる公的機関のサイトや学術データベース、学校図書館などを優先する。

(2)評価してメモをとろう

  • なぜその情報が正しいと思うか? 出典はあるか? 更新日は新しいか?
  • ChatGPT用に使いたい情報をまとめる場合、引用元や著作権にも気をつける。
  • 整理した情報は、後でGPTの「カスタム指示」や「追加コンテキスト」に組み込む際に活用する。

Step C: Objective Knowledge の活用

(1)データの正確性や科学的根拠をチェック

  • 特に数字や統計データなど、客観的な知識は間違いがないか再確認。
  • 例:環境のCO2排出量や歴史上の年号・事実関係など。

(2)論理のつながりを意識してGPTに組み込む

  • 「この知識をGPTに与えるとき、どういう形で提示するといいか?」
    • 例:ファイルとしてアップロードする/システムプロンプトで「この文献の要約に基づいて…」と指示するなど。

Step D: Creative Ideas の展開

(1)どんな機能やキャラクターにしたい?

  • GPTsのペルソナや話し方、出力フォーマットを考える。
  • 例:科学者キャラ、親しみやすい語り口、Q&Aスタイル、ストーリー形式 など。

(2)ストーリーボードやフローチャート作り

  • 利用者がどんな質問をしそうか、どう答えたいかを可視化する。
  • 創造性を発揮して、面白いシナリオやユーザー体験を設計しよう。

Step E: AI(GPTs)の構築と調整

ここが実際のノーコードプログラミング体験のメイン

  1. GPTs 作成画面にアクセス

    • ChatGPTの「GPTを作る」メニュー(※今後提供される機能やベータ版を想定)や、既存の類似ノーコードBot開発ツールを使って開始。
  2. システムロールの設定

    • 例:「あなたは環境問題の専門家です。以下の情報(○○省の白書、××研究所の調査レポート)を参照して回答してください。」
    • 「Original Values」を踏まえ、求める世界観や倫理観も明示する。
      • 例:「子どもにもわかりやすく、優しい言葉で話してください。偏った情報は提示しないよう、複数の視点を提供してください。」
  3. 追加コンテキストの設定

    • 先にまとめたReliable InformationObjective Knowledgeをファイルでアップロード、またはテキストとして貼り付ける。
    • どの部分を重点的に使ってもらいたいかをプロンプトに書き込む。
  4. サンプルユーザー入力・出力例の作成

    • GPTをテストするため、想定質問と理想的回答例をいくつか入れておく。
    • 「子どもが『どうやったら海をきれいにできるの?』と質問したら?」などのケーススタディ。
  5. テスト・チューニング

    • 実際に試してみて、うまく回答しない場合はプロンプトを修正したり、知識ベースを再編集したりする。
    • ここでCreative Ideasをさらに洗練させる。

Step F: 評価・振り返り

(1)動作テストとユーザーフィードバック

  • 他のクラスメイトや家族、地域の方に試してもらい、分かりやすさ・有用性・正確性などをチェック。
  • 「情報が正しく伝わっているか」「誤情報や偏った表現はないか」を再度点検する。

(2)学習者自身の学びの振り返り

  • Original Valuesは達成できたか? どのような社会的意義や個人的意義を感じたか?
  • AI-ROCOモデルの視点で「AIの活用」「情報の信頼性」「客観的知識」「創造性」「価値観」のうち、どこが充実していたか、どこをもっと改善できそうかを話し合う。

(3)改良と再公開

  • 必要に応じてGPTをアップデートし、さらに完成度を高める。
  • 公開の場(学校祭やオンラインコミュニティ等)を設定して、社会的な成果発表に繋げると学習動機が持続しやすい。

4. 学習を支える視点とヒント

  1. ファシリテーターの役割

    • 教師やメンターは「やり方を一方的に教える」のではなく、子どもたちが情報選択やプロンプト調整を試行錯誤するのをサポートする立場に。
    • バイアスや著作権など倫理面での注意喚起を随時行う。
  2. 評価はプロセス重視

    • GPTの最終的な性能だけでなく、どのように情報を探し、編集し、創造していったかといった学習プロセスをポートフォリオなどで評価する。
    • 「どんな情報をどんな理由で選んだか?」を振り返るレポートを作るのも有効。
  3. チームでの創造的対話

    • AIとの対話だけでなく、仲間との対話も重要。アイデアをぶつけ合い、情報の真偽を検討し合うことで、より多角的な視点が得られる。
  4. 小さくても社会実装へ

    • GPTを学校内や地域のイベントで使ってもらうなど、実際に活用される場を作ると学習の意味合いが深まる。
    • 「役に立った」「もう少しこうしてほしい」というリアルな声が次の改善を促す。

5. まとめと今後の展望

  • AI-ROCOモデルに基づく学習ガイドでは、「AI, Reliable Information, Objective Knowledge, Creative Ideas, Original Values」の5つの観点を循環させることで、ノーコード×生成AIプログラミングをより豊かで多層的な学びへと導きます。
  • 特にChatGPTのGPTs作成機能を活用することで、コードの専門知識がなくても、自分のアイデアや信頼できる情報をAIに組み込んだ独自エージェントを構築できます。
  • 今後は学齢や教科、地域との連携に応じて、多様なテーマでの応用が見込まれます。子どもたちが自分の「価値観」と「社会的・科学的知識」を重ね合わせながらAIと協働する体験は、未来の学習のスタンダードになっていくでしょう。

最終メッセージ

  • 自然言語でAIと対話しながらプログラミングを体験する──この最先端の学習モデルを通じて、子どもたちは情報を批判的に扱う力、創造する力、自分の価値観を表現する力を身につけます。
  • その結果、AIを「使わされる」存在ではなく、AIをパートナーとして積極的に活用し、自分たちの世界を創り出していく新世代の学びが形づくられることを期待します。